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店を出ると、もうすぐ二月を迎える冬の底冷えが全身を包む。
刺すような空気に、泣いてメークの落ちた頬が痛かった。
「あのお酒、美味しかった」
元来た路地を篠田と並んで歩く。
「カクテルに詳しいの?」
「いや全く。俺はカクテル飲みませんから。女性向きでアルコール低めって言ったらあれが」
あれから結局、気の済むまで泣くのに付き合わせる形になった。
私は最後まで篠田に泣き顔を見せることなく顔を背け続け、彼はただ黙って隣に居るだけだったけれど。
「あの紫色ってスミレ?何のお酒がベースになってるの?」
「説明聞きましたけど、先輩が怒りそうな名前でしたよ」
「何て名前?」
「パルフェ・タムールっていうスミレを漬け込んだリキュールがベースらしいです」
「パルフェ・タムール…?」
すなわち、フランス語で完全な愛という名。
「嫌味だわね!どうせ失恋したわよ、完全な愛にはほど遠く」
「ほら、そう来ると思った」
隣で篠田が苦笑いした。
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