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「でも、もう1つ勧められた“ビトウィン・ザ・シーツ”よりましでしょう」
その名前に思わず吹き出した。
寝床につくという意の熟語だけど、直訳すると“シーツの間”だ。
「訳次第で揉める人いそうよね」
笑うと重い、泣き腫らした目蓋でビルの隙間の空を見上げる。
二人の歩調は来た時と違って緩やかだ。
感情を曝け出してしまったせいか、それともお酒が距離感を縮めたのか、彼への警戒心はかなり解けていた。
二人ともが口をつぐむと、何かの前の静けさのような沈黙が立ちこめる。
それが一体何なのか掴みかねていると、篠田が口を開いた。
「完璧かどうかって、結果は関係ないと思います。目に見えるものが全てじゃないですから」
そんな言葉、篠田には意外な気がして彼の横顔を見上げる。
「かつて感じたものまで、過去の全てを否定する必要はないです」
「…篠田が言うと嘘臭い」
「毎度どうも」
バーで言い過ぎたと思ったのか、そんな彼の気まぐれにほだされないよう半信半疑で捻くれて返すと、篠田が笑った。
その白い息を見ながら、この男にも体温があるんだなと当たり前のことを考えた。
この男は、
どんな時に崩れるのだろう?
どんな相手に。
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