壊される夜 ー2

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篠田が入ったのは静かな通りの一角にある目立たないバーだった。 初めての店内に立ち止まる私を、篠田がカウンターまで腕を引く。 「こんなお店があったのね。 すぐ近くなのに知らなかったわ」 腰掛けた途端に放された腕が何だか心許なくて、ごまかすように店内を見回した。 暗さに目が慣れてくると、落ち着いたインテリアがよく見える。 客は一人飲みか、せいぜい二人連れが中心の静かな客層だ。 適度なボリュームの音楽が程よく店内の話し声を消していた。 「ここにはよく来るの?」 親密さを増すような心地よいほの暗さのせいか、オーダーが届く頃には篠田と二人のこの状況への戸惑いも少しずつ解けて、沈黙も気にならなくなっていた。 「たまに、ですね」 上着を脱いだ長い腕で頬杖をつき、篠田はグラスを揺らした。 「昔はよく来てましたよ。 先輩がコンビ組んでた戸川とね」 「戸川君と仲良かったんだ?」 喋りながらも、こうして篠田と普通に会話している自分がとても不思議だった。
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