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「いったいどうしたの?」
鏡越しに睨みつけてくる彼女に呆気にとられる。
「この間の新年会です」
「……新年会?」
「私が篠田君と約束したの、先輩聞いてましたよね?」
ヒヤッとしたものが背筋を走る。
「見た子がいるんです。先輩と篠田君が一緒にタクシー乗ったの。
後輩の相手を奪うなんて、悪趣味じゃないですか!」
ああ…やっぱり。
会社の近くだとこういうことになる。
「奪ってなんかないわ。
たまたま居合わせたから相乗りしただけよ。方向が一緒だから」
“たまたま”と“だけ”以外は嘘じゃない。
「電車に乗ってるとか、ふ、二人でバカにして…」
「電車?それは知らないわよ」
しらばっくれるしかないけれど、よく見ると小椋さんの目元が赤くなっていて、今だって泣きだしそうだ。
昼休みから泣いていたのだろうと思うと、可哀想になってきた。
何もかも、呑気に出張しているあの男のせいだ。
篠田の嘘を内心恨む。
ところが、これで終わりではなかった。
小椋さんはしばらく俯いてハンカチで目を押さえた後、突然涙で濡れた顔を上げて猛攻してきた。
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