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「片桐主任がダメだったからって…」
また怜の話か。
黙って腕組みをして向き直る。
「片桐主任、結婚決まったそうじゃないですか。あの地味な子と」
「それが私に何の関係が?」
ああこの台詞、篠田が私に言ったんだっけ。
怜の結婚を皆が知る時を恐れていたはずなのに、自然にサラッと口にできた自分が意外だった。
「素直に泣いたりしないのって男から見たら可愛くないですよ」
「へぇ、よく知ってるのね」
あの男の前では泣いたけど、あれは可愛いとは言い難いだろう。
「私、亀岡先輩みたいになりたくないです」
「あらそう。いいんじゃない?」
「偉そうに女王とかって、もう年じゃないですか」
「言わせてもらえばあなたもね」
ああ、もう泥沼じゃないの!
取り合うまいと思うのに私の限界はもうすぐそこに来ていた。
「私は仕事にしがみつく年寄り亀にはなりませんから!」
亀……?
ブチッと何かが切れる音がした。
私の地雷を踏んだのは、怜の話題でなく“亀”だった。
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