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実はのろまとからかわれた幼少期の意地で子供時代に逆転した私は、女王と亀が微妙にマッチしていないことに敏感だ。
いや、もう理由は何でもいい。
息を吸い込んで一気に攻勢に転じた。
「自覚のない年増ほど情けないものはないわね。能もやる気も無い者はせいぜい仕事の代わりにしがみつく相手でも探すといいわ」
ついに禁句を口にした私に小椋さんは絶句した。
「部下を能無しって…」
「主語が誰とは言ってないわよ。
自由に解釈すればいいわ」
「じゃあ仰る通り篠田君いきますから!」
「どうぞご勝手に。
でも彼、彼女いるわよ」
もはや死なば両とも、自虐ネタだ。
「私、そんなの構いません!
誰かみたいにお高くとまってませんから!」
そう吠えて彼女は出口へと向かった。
「ほら、商売道具忘れてるわよ」
スワロフスキーの大きなハートのチャームのついた彼女のポーチを鏡越しにチャリチャリと振る。
「これがないと大変よね、顔が」
「触らないで下さいっ」
私の手からポーチをひったくると、小椋さんは凄い音を立てて飛び出していった。
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