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「………、」
大通りで一際大きく鳴り響いた車のクラクションの音で、私達はハッと鋭く息を吸って離れた。
まるで夢から覚めたように。
「…すみません」
彼の第一声に目を見開く。
それは一体、どういう意味…?
彼の目に苦く揺らいだ何かを掴もうと、懸命に見つめる。
けれどそれは一瞬で消えて、普段通りの静かな表情で彼は続けた。
「もう行きますね。
部長が痺れを切らしてるでしょうから」
「ああ…そうね。頑張って」
「俺は通用門側に戻るのでこっちの角から行きます」
そう言って篠田は横道を指した。
もう、ここでお別れだと。
前回は人目についたことでトラブルになったんだから当然の配慮だろうけれど、突き放されたような気持ちになる。
「遅くならないようにね」
「じゃあ、お疲れさまです。
帰り、気を付けて」
「……篠田君!」
遠ざかりかけた背中を思わず呼び止めた。
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