彼のキス、課長の提案

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海事の大部屋に戻ると、小椋さんはやはり席にいない。 今日もやたらと髪やメークに気を配っていたし、やけにふわふわとご機嫌だったから、篠田絡みで何かあるのかもしれないと思うと、正直心中穏やかではいられない。 上司でありながらプライベートでひそかに敵対するって、なかなか切り離すのが難しいなと思う。 そんなことを考えながら、米州部の島を通り抜けてお隣アジア部に帰ろうとしていると、ふと羽鳥課長がこちらに手招きをしているのが見えた。 課長の隣の席の篠田をチラリと意識しながら笑顔を作って近づく。 「課長、どうかしました?」 「ごめんね、呼び付けて。 ちょうど横を通るのが見えたもんだから」 羽鳥課長がにこりと笑って椅子をこちらに向けた。 軽く組んだすらりと長い脚。 色素の浅いサラサラの髪、端正な顔立ち、普通の人には着こなすのが難しいベージュ系のスーツでもスマートに着こなしてしまう雰囲気はやはり怜にそっくりだ。 「この間の話だけど、今日どうかな?」 この間の話…とは、少し前に終わったバレンタインの流れだ。 今年は私にとって数年ぶりに日本で迎えるバレンタインだった。
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