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ビルの谷間から仰ぐ真冬の空はもう夕暮れの名残も消えて、すっかり夜の帳の下りた細い路地には小さな看板の明かりが点々と灯されていた。
店までの道順はすぐに分かった。
前と同じカウンター席に腰掛け、少し迷ってからこの間篠田が頼んでくれたものと同じお酒を注文した。
ちょうどお酒が届く頃、思ったよりも早く篠田が店に入ってきた。
「早かったのね」
「今、ちょうど抜けられそうだったんで。一時間ぐらいですが」
「ごめんね。出張直後なのに」
「いえ」
彼は軽く腹ごしらえできるものを注文すると、コートを脱ぎながら尋ねてきた。
「小椋、かなりひどく突っ掛かってきたんですか?」
「まあ、そうね。……でも、私もかなり言い返しちゃったから」
「先輩が?なんでまた」
「小椋さんから聞いてないの?」
「何も。そこらへんは賢い奴ですよ。自分が悪いって分かってるんじゃないですか?」
「そうなのかしら…?」
ここ数日の態度からはとてもそう思えないけれど。
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