彼のキス、課長の提案

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弾んだ声でやってきたのは、メーク直しを終えた小椋さん。 ふわりと漂うやけに清楚な香りは、男性に一番人気の香りに変えたとか最近トイレで喋ってたやつだろう。 そういうことだけは研究に余念がない。 いっそ化粧品メーカーにでも就職すればよかったのに。 ところが、一瞬そんなことを考えて小椋さんに逸らした注意を課長に戻そうとしていた私は、彼女の次の一言で全身がアンテナになったように後ろの二人に集中した。 「篠田君、今日行けるよね?」 ……え? 「ああ…大丈夫」 ガツンと脳天に岩を落とされた気分になった。 唇のリップの甘さがやけに気障りに感じられる。 早帰りの金曜日。 篠田が小椋さんと……、 「亀岡さん、今日は何かあるの? 無理しなくていいよ」 いいえ、行きますとも。 むくむくと頭をもたげる意地で、優しく微笑みかけてくる課長に最高の笑顔を返す。 背後の篠田から見えるよう身体の向きをさりげなく変えたのは、篠田が見てるか見てないかなんてより自己満足だ。 「いいえ、大丈夫です。是非」
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