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「片桐君といえば大丈夫?
嫌な思いしてない?
婚約の噂がもう回ってるね」
「はい…。でも大丈夫です。
これが社内恋愛の代償だと受けとめてますから」
正直、怜の噂で受ける嘲笑と同情は心地いいものではない。
ただ、篠田への気持ちに気付いてからは前ほどに気にならなくなっていた。
「長い縁だよね、片桐君とは。
君達が入社してきた頃を思い出すよ。二人でこっそり目配せし合ってたよね?」
「あっ…ばれてたんですね。
課長の目を盗んでるつもりだったのに。恥ずかしい」
思わず首をすくめて笑った。
「可愛かったよ。懐かしいね」
私達が入社した数年後に課長はアメリカに赴任、帰国と入れ替わるようにして私が上海に行ったので、私と課長は実に七年ぶりの再会だった。
「早いですね。気付けばもう三十路になっちゃって」
「君は昔よりさらに魅力的なったよ」
不意に課長の柔らかな目が真剣な色を帯びたのを感じて、黙って課長を見つめ返す。
「一つ、聞いてもいいかな。
嫌なら答えなくていい」
「…はい」
「亀岡さんは今でも片桐君を?」
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