彼のキス、課長の提案

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「期限?」 あまりに予想外の台詞に眉をつり上げ絶句すると、課長は苦笑いした。 「ごめん、怒らせたね。 単刀直入に言うと、僕とアメリカに行くことを考えて欲しい」 「……」 「僕が渡米するのは四月末。 渡米までの二ヵ月で答えを考えて欲しいってことだよ」 つまり、結婚を。 侮辱的な誘いでなくてホッとしたけれど、突然の話に茫然とする。 「期限付きだなんて邪道なようだけど、遠距離の苦労で君を拘束するつもりはないし、重い話で君を悩ませたくない。 この方が断りやすいでしょ?」 課長の茶目っ気のある笑顔に答える余裕もなく、ただ見つめ返す。 赴任が結婚のきっかけになることは珍しいことではないけれど。 でもいざ目の前の現実になると、 頭が真っ白になった。 「今さらの話だけど、 僕は今、結婚していないよ。 数年前に離婚したんだ」 「……離婚の理由を聞いてもいいですか?」 やっと口がきけるようになった私に、課長は穏やかに頷いた。
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