彼のキス、課長の提案

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「前回の赴任が決まった時、これもタイミングかと当時交際していた女性と結婚したんだ」 何となく覚えている。 当時人気だった羽鳥課長の結婚と赴任で社内が騒いでいたこと。 「最初、彼女は渡米を喜んでいたんだけどね。 でも現実には海外生活に順応できず、彼女だけ日本に戻ったんだ」 「そして離婚を?」 「溝を修復したところで、僕はこうして何度も赴任する身だから。 同じことの繰り返しになるから傷の浅いうちに、と」 「……私なら順応できるだろうってことですね」 流れに任せた結婚の破綻。 苦い経験をした課長が私に求めているのは、心でなく条件だけ? 「ある意味それもあるけど、僕の気持ちを誤解しないで欲しい。 あの時、気持ちやタイミングだけじゃなく、人生のベクトルが同じであることも結婚に必要だと学んだんだ」 課長の結婚に欠けていたもの、 私と怜に欠けていたもの。 それぞれ違うけれど、 互いに苦い躓きを経験した三十代。 だからこそ、昔なら拒絶したはずの冷静な言葉も理解してしまう。
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