彼のキス、課長の提案

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「事の発端はね、私達がタクシーに乗り込むのを誰かが見てたらしくて。それを耳にした小椋さんがトイレに乗り込んできたのよ」 「へぇ。それで? どう答えたんですか?」 篠田は私を余計なトラブルに巻き込んだくせに、どこか面白がっている風だ。 「ただ居合わせたから相乗りしただけって答えたわ。……だって、そう言うしかないでしょ」 今、二人の間に暗黙に漂うのは、あの夜あれから彼の部屋で起こった濃厚な色々。 篠田がニヤリと口の端を上げた。 「別に事実のまま言ってもらって構わなかったのに」 「まさか!」 思わず大きな声を出した時に、ちょうど料理がと届いたので口をつぐんだ。 「……二人分?」 「俺に自分だけ食えと?」 「ありがと…」 さっさと料理を取り分ける篠田に役目を奪われた私は、大人しくその手捌きを見守った。 仕事も女も器用に捌いてしまう、その有能で憎たらしい指先を。
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