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「…時々、逃げ出したくなるの」
ごめんなさい、こんな弱音。
でも…、今だけ。
けれど篠田が無言でこちらを向いた時、彼の携帯の呼び出し音が響いた。
「…すみません」
……もう戻る時間。
コートのポケットを探る篠田の背中で、こっそりため息を消した。
「篠田です。
……ああ、大丈夫です。
バックアップ取ってますから。
すぐ戻ります」
彼は仕事中だったのに。
今日は特別忙しいはずなのに。
弱く傾きかけた自分を戒めた。
「ごめんね、戻る時間ね。
何かトラブルあったの?」
雰囲気を変えようと、通話を切った篠田に明るい声で尋ねた。
「部長がファイルを消してしまったと」
「機械オンチだものね、そっちの部長は」
「分かってないくせにいじるんですよ」
苦笑いしながら二人とも立ち上がった。
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