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「なんて言い方するのよ!」
カッとなって篠田を押し退けようと振り上げた手を逆に掴まれた。
「そんな訳ないじゃない。そんな誰にでも、みたいな言い方…」
身体を捩ったけれど、壁に阻まれて逃げられない。
「だって、そうでしょう?」
鼻先が触れそうな距離で、篠田が低い声で言った。
「迫られるとフラフラしてるじゃないですか」
「やめてよ…誰か来たら」
あまりの近さに、
言葉が頭に入って来ない。
こんな場所なのに。
キスされる、
そう思ってぎゅっと目を瞑った。
「…課長なら、片桐主任の身代わりができるんですか?」
でも、唇の代わりに降ってきた言葉にはっと目を開く。
廊下を近づいてくる話し声と同時に、突然解放された手と身体。
「それで楽になれるなら、そうしたらいい」
そう言い残すと篠田は私に背中を向け、そのまま休憩室を出ていった。
その時の彼の表情が、
“壊れればいい”
あの時と同じに思えて、一日中、頭を離れなかった。
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