素肌を彼に

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「つか相原、その安物傘どこから取ってきたのよ?もしかして管理部に転がってたアレ?」 美香が見とがめて割り込んできた。 「あ、そうです。放ったらかしだったからパクってきました」 「ちょっと、そんなの美紀にって失礼でしょうが!」 「やだもう友則」 「安モンだわ盗品だわ、女王に何持たせてんだよ、このバカ」 「えー、無いよりマシかと」 美香達二組の夫婦が賑やかに騒ぎながら去っていくのを残りの皆で見送る。 「何だかんだで幸せそうだよね」 「入社した頃はずっと一緒にいようね、なんて盛り上がったけどさ、十年も経つと人生色々だね」 「美香がママになって退職とはなぁ。時の流れを感じるよ」 「やだ、また寂しくなってきた」 「よし、寂しい我々は飲み直しに行きますか!」 「行こう行こう!アルコール抜きだったから物足りないわ」 「美紀も行くよね?」 「ああ…うん」 返事をして皆に続いて歩きかけた私はふと足を止めた。 確かこの角を曲がれば篠田と会ったバーの通りに抜けられるはず。 あの店に彼が今いるはずがないと思いながらも、私は通り過ぎることができなかった。
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