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今日、梨香子達の幸せそうな後ろ姿を見ても、以前のような寂しさは感じなかった。
ただ“一番好きな人”に無性に会いたくなった。
会いたくて、この店に来て、
会えなくて。
冷まそうと思った熱は冷めるどころかどんどん膨らんで、胸を壊すほどに大きくなっていく。
突如グラスの残りを飲み干して、
立ち上がった。
……行こう。
彼のところに。
最初の夜は、意識も朧気で。
二度目の夜は、篠田に流されて。
今度は私の意志で、
彼に会いに行こう。
店を出て、大通りへと急ぐ。
選んだのは電車でなくタクシー。
途中下車して逃げないように、
もう後戻りできないように。
でも途中で揺らぐことはなく、乗り込んだタクシーの窓の外に流れる灯りを静かに見つめ続けた。
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