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「あの……、」
今、自分がどんな顔をしているのか分からない。
これまでどんな時も余裕で振る舞ってきたはずなのに。
「どうしたんですか?
…とりあえず入って下さい。
冷えるから」
腕を引かれて玄関に入りながら、何を言うのか考えていなかった自分の粗忽さを呪う。
「一体、何が」
「会いたかったから」
篠田の問いかけを遮った。
好き、なんて言えない。
これが私の精一杯。
明るい照明の下で彼を見上げる。
どれだけ抵抗しても私の心を簡単に束縛してしまう憎たらしい男。
「会いたいと思ったから……」
驚いて目を見開く篠田に、
もう一度繰り返した。
「……」
けれど返ってきたのは沈黙。
途端に自分の突飛な行動が恥ずかしくなった。
「…ごめんなさい。
やっぱり帰…っ…」
言葉が途切れたのは、
彼の胸に顔がぶつかったから。
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