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好き。
そう告げるために来たのに、その一言がどうしてこんなに遠いのか、どうしてこんなに怖いのか。
「……き」
揺れながら口にした囁きは私の勇気そのまま、中途半端に消えた。
でもその小さな囁きで篠田は動きを止めた。
深く抱き合ったまま、荒い息の中見つめ合う。
「先輩…、俺は」
「キスして」
拒絶なんてしないで。
終わりになんてしないで。
彼の言葉を遮って求めると、
彼は一瞬躊躇した後、唇を重ねてきた。
「もっと…」
離れる度にまたねだる。
ずっと、このままでいて。
唇が重なる度、隠すこともできない本能を晒して、心そのままに身体の奥もきゅうっと切なくなる。
「……、」
篠田も眉を寄せて苦しそうな息を吐いた。
その脈動に彼の心を探してまた溢れる。
互いの一番弱く敏感な部分を重ね合うこの行為が、こんなに親密で、こんなに狂おしく切ないものだったなんて。
言葉にできなくても、
これまでの誰よりも、
私は体と心の最奥を彼に明け渡していた。
そのことが私に致命傷をもたらすことをどこかで恐れながら。
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