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「式は五月だったわよね?」
「うん。もうすぐ招待状出すよ」
「いいけど…。
深沢さんは大丈夫?
元カノに関しては本音はなかなか言えないものだと思うけど」
「きっと大丈夫だよ。
美紀は構わない?」
久々に出た呼び方に顔を上げる。
「ダメよ、その呼び方。
元カノの名前をポロっと言われたら女は本気で傷つくんだから」
「懐かしいな、美紀のダメ出し」
「だから呼び方やめてよ」
「はい、ごめんなさい」
ふざけて謝った怜が私の顔をしみじみと見つめた。
「最近、変わったね」
「そう?」
「うん。何となくね」
怜は優しい表情を浮かべた。
「…誰かいるの?」
怜の顔を見つめ、
自分の胸の奥を探る。
でも、感じるのはもう微かな痛みだけだった。
どんなに長く苦しんだ恋も、
懐かしさと切なさだけを残して、
こうして終わっていくものなんだろう。
「…言わないわ。怜なんかに」
「そっちだって呼び方ダメだよ」
その時誰かが入ってくる足音がしたので、二人で笑いながら入り口を振り返った。
けれど入ってきた人物を見て、私は思わず“まずい”と引きつった。
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