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本当はいまだに日々篠田の姿を見る度、いつも胸は悲しく軋んでいるけれど。
でも課長と共にアメリカに渡り、彼の姿を見ることも声を聞くこともない中で課長に身を任せていれば、いつか消していけるだろう。
課長となら。
それはもう感じていた。
だけどただ一つ、残されるのは。
私は本当に忘れることを望んでいるのか、ということだった。
「亀岡さん」
深く物思いに沈んだ意識を、課長の声で現実に戻す。
「君が返事してくれた時に言ってたことだけど、聞いてもいい?」
「…はい」
泣きながら帰ったあの日の夜、課長からの電話に私は承諾の返事をした。
その時、罪悪感にかられて正直に打ち明けていた。
本当はまだ心に残す人がいる。
こんな状態でも許してくれるなら、期限まで課長と真剣に向き合いたい、と。
「今さらだけど、あれは片桐君のこと?」
「…はい」
篠田だなんて、今のあなたの部下です、だなんて白状できず、ウソをつく。
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