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「課長…、」
何を言うつもりなのかも分からないまま、声を絞りだした。
「ワインは…?」
まるで流される者が何かにすがるように、踏み止まる理由を探してしまうのはなぜだろう?
「…後でいい」
後ろから回された課長の指が前開きのカットソーのボタンにかけられた。
“幸せになってください”
篠田の声が聞こえた。
プツリとボタンが一つ、
外される。
ゆっくりと、また一つ。
その指はまだ肌に触れていないのに、吐息が漏れるほどの感覚に自分を見失いそうになる。
そう。
このまま見失えばいい。
自分も、篠田も。
何も見えなくしてくれたらいい。
…なのに。
何度も別れを告げたのに、いつまでも面影を探し、いつまでもさよならと叫び続けているのはなぜだろう?
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