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「人それぞれだろうけどね。
相手にもよるだろうし」
こんなに近くで顔を見て声を聞くのはあの日以来だ。
あの日はもっと近かった。
これ以上ないほど、
近くで声を聞いたのに。
なのに――。
私には注がれないその目を見つめる。
「中野は相手にとって何が幸せかを最優先して別れた訳だろ」
篠田は頬杖をついてグラスの氷を眺めながら淡々と続けた。
「強引に自分の物にしても、どうしても与えてやれないものがあるなら、手に入れないのも愛じゃないの?」
篠田が語っているのは中野君のことじゃない。
「自分の気持ちのまま押して苦しめるより、手放して自由にしてやりたいと。
そういうことだろ、中野」
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