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課長の手が私のまとめ髪に触れたと思うと、ピンが抜き取られた。
床に落とされたピンの音がフローリングに小さく響く。
同時にはらりと落ちてきた髪から、閉じ込められていたシャンプーの香りが放たれた。
首筋にキスを重ねる課長の肩に、
追い詰められた頭を預ける。
退路を探したらだめ。
このまま、私は……
「…ほら。
ちゃんと見なきゃだめだよ」
容赦のない柔らかな声に促され、
閉じていた瞼を開く。
窓ガラスにはダウンライトの光を受けて私たちの姿がはっきりと映し出されていた。
乱された胸元。
抱き締められて、課長のものになろうとしている自分の姿。
課長を選ぶということは、
こういうこと。
もう篠田を思うことすら
許されないということ。
本当の、最後のさよならを告げるということ――
鋭く息を吸って、
最後のボタンを外す課長の手を、
震える手で掴んだ。
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