さよなら、一番好きな人

6/33
前へ
/33ページ
次へ
「…深沢さんから聞いたの?」 「うん。チラッとね」 社内中に広がる噂でないことに少しホッとした。 「美紀はついて行くの?」 「まだ決めてないの。 その呼び方、いいかげんにやめないと」 「ごめん」 話を逸らしたいのもあって口煩く指摘すると、怜はそれを察したのか苦笑しながら机の上の資料を手に取った。 「ベトナムも担当してるんだ?」 「そうよ。今月からだけどね。 まだホヤホヤよ」 「大変そうだな。 未知のエリアだよ、僕には」 「そう?今一番動きがある国よ」 「美紀らしいね。フロンティアであり続ける逞しさ。憧れだよ」 怜は背もたれにぐっと身体を預けて、夜遅い今はほとんど人のいない大部屋を見渡した。 かつて私達が恋をした場所。 「なんだか不思議だよね。 僕とは行かなかったアメリカに、 もし課長と渡ることになるなら」 「……そうね」 「あの時、僕達のどちらかに勇気があったら、今は違っていたんだと思うとね」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2492人が本棚に入れています
本棚に追加