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「…深沢さんから聞いたの?」
「うん。チラッとね」
社内中に広がる噂でないことに少しホッとした。
「美紀はついて行くの?」
「まだ決めてないの。
その呼び方、いいかげんにやめないと」
「ごめん」
話を逸らしたいのもあって口煩く指摘すると、怜はそれを察したのか苦笑しながら机の上の資料を手に取った。
「ベトナムも担当してるんだ?」
「そうよ。今月からだけどね。
まだホヤホヤよ」
「大変そうだな。
未知のエリアだよ、僕には」
「そう?今一番動きがある国よ」
「美紀らしいね。フロンティアであり続ける逞しさ。憧れだよ」
怜は背もたれにぐっと身体を預けて、夜遅い今はほとんど人のいない大部屋を見渡した。
かつて私達が恋をした場所。
「なんだか不思議だよね。
僕とは行かなかったアメリカに、
もし課長と渡ることになるなら」
「……そうね」
「あの時、僕達のどちらかに勇気があったら、今は違っていたんだと思うとね」
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