さよなら、一番好きな人

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でも、一瞬私に留まったかに見えた篠田の視線は、そのまま逸れていった。 痛む胸を諦めの笑みで覆い隠して、怜との会話を繋いだ。 「深沢さん、お疲れみたいよ」 「篠田君にもう少し彼女をしごかないように言わなきゃ」 「介入する気?みっともない」 「冗談だよ」 こちらに少し微笑んだ深沢さんの様子に安心したらしく、じゃあねと手を振って怜が去っていく。 「数字が欲しいって言ったくせに、呆れるったら」 怜の過保護ぶりにクスッと笑いながら目尻の雫を拭い、またキーを打ち始める。 画面の向こう側では篠田と課長が何やら立ち話をしているのが見えていた。 課長の渡航まで、あと半月。 そして私は、荷造りの手伝いという名目で翌週末に課長の部屋に行くことになっていた。 それがどういう意味を持つことになるのか。 抱かれてしまえば、もし課長を選ばなくても二度と篠田に戻る資格はないだろう。 迷う心を溜め息に変えて、篠田の姿を追ってしまう目を固く閉じた。
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