男の人魚

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男の人魚 1  目を覚ますとここが何処なのか分らなかった。 数秒してから周りの状況と、自分の下半身が異常なのに気が付いた。 目が覚めたら自分が一匹(?)の人魚になっていた。夢かと思った。カフカの仕業かとも思えた。しかし現実に俺は変身していた。 確か昨日は彼女とドライブの後で海沿いの高いホテルに泊まり、しっかり美和子と抱き合ったはずだ。それなのに何故こんな所に居るのだ。おかしい。上を見上げると、水中にキラキラとよく陽が差し込んでいた。浮上をして、顔を水面に出す。すると、よく見た景色…。片瀬海岸だ。右側には江ノ島がある。丁度沖から海岸辺を望む形になって、俺は浮いている。昨日が8月の12日だったから、当然今日は13日だろう。砂浜では、たくさんの色と人が賑わっている。ボートに乗ったり、サーフィンをしてる奴等も見える。俺は右腕を外に出した。手首には文字盤がオレンジ色のダイバーズ・ウォッチがからまっていて、時間は11時8分になっている。防水の腕時計を買っておいて良か ったと、俺は思った。 少しづつだが、記憶が蘇る…。 そうだ、確かにここだ。昨日チェック・インしたホテルも今、真正面に見えている。 暫く放心したが、考えるのがもう嫌になった。 あお向けになり、体を浮かすと、気持ちが良かった。足を動かすと、大きなひれが左右に動き、体を前進させてくれる。 心地良さがしみ入る。 都会であくせく生活するより、ずっといい。 こうして暮らすのも一興だ。 海水が目に入ったが痛くはなかった。 眠くなったので、そのまま眠った。
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