男の人魚

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2  再び目覚めると、もう夕方だった。島は影絵の様… 海を紅くして、地平線に陽が沈んでゆく。顔がヒリヒリしたが、それは太陽のせいだ。息を思いっ切り吸い、潜った。泳いで深く行く。薄暗かったが、視野はしっかりしていた。腹が減ったので、そこらの魚を取ってそのまま食べた。  掻き分けながら泳いでいると、目の前に全体が白っぽい、やや小さめの船が横向きにあるのが見えた。難波船、クルーザーだった。俺の住家はここにしよう。そう思い、近付いた。キャビンに寄ると、サーッと、雑魚が群れをなして逃げて行く。まだぜんぜん進化していない魚。  俺、人魚は、魚の進化であり、哺乳類の仲間だと思う。人間と魚の間に出来た新生物かも。だけどこんな見事に、上半身・下半身が分かれるものだろうか? でも、もういい。マイ・ホームを見つけたのだから。人間だったら、住むところ一つ手に入れるのも至難の業だ。ひきかえ俺は、なんてついているのだろうと、幸福さえ感じた。 中に入ると、より一層暗かったが、個室で、居心地が良さそうだった。水に揺らされて、体がフワフワする。耳元では海中の物音等が涼しく調和して、一種のメロディーを奏でてくれてる。眼を閉じると最高で、もう一つの世界が遠ざかって行く様な気がした。でも、俺はその事について、何とも思わない。このままでいい。何故か懐かしい気持ち、そう、まるで母親の体内に居る時みたいに思える。涙が出たような気がするが、ここではワカラナかった。解放的な無重力が、なおも続く。明日は龍宮城を探しに遠出してみようと、心に決めた。
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