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がむしゃらに泳いで、幾分疲れた。やっぱり海は広いのだ。
今の現在地が分からなくて浮上してみた。辺りには何も無い、まったくの水平で、空と海が遠くで真っぷたつに分かれ、その間を雨が降っていた。俺は雨に濡れるのが嫌で、再び潜った。
すると、いきなり後頭部をハンマーのような物で殴られた様な衝撃が走った。ハンマーシャークが、態俺にぶつかってきたのだった。恐ろしい口元は、虫歯で泣く奴の気持ちなどわかる術もなく、ニヤッと笑った風に見えた。流線型の体をくねらせて、又もこっちへやって来る。力は互角、いや、自分はそれ以上だと思ったが、闘う気が起こらなかったので、ここは一番、逃げる事にした。全力で、水中を駆け抜ける。と、エンジン付きの乗り物みたいなスピードが出せる自分自身に驚いた。
いい事ばかりはありゃしない。それは、この世界でも同じなのだと、悟った。
さらに深く、深く潜る…。しばらくすると、大きな岩ばかりの場所にたどり着いた。そこらの水はとっても綺麗で、かなり先の方まで見渡せた。日本の海じゃない様な気がする。サンゴがいっぱい… 虹色の魚達もいた。赤く、でかい海老もわんさかいて、五匹程つかまえて食べた。食後に煙草がどうしても吸いたかったが、それは絶望的なものだった。
マリン・ブルーの風景に、身を投げ出してくつろぐ。さっき打った頭に、水族館が想い浮かぶ。こんな感じが、すごく懐かしい気がする。浮遊がしばらく続いた。時々両耳がキーンとなった。今はいったいどれ位の深さなのだろうか。すっかり深海底だった。水深は…? 水深千メートルにもなれば、普通の人間なら水圧に負けて身体はグチャグチャだ。だけど俺の周りにいる魚達は、平気な顔で泳いでいる。もちろん、俺も何ともない。だが、ふと見た俺の50メーター防水のダイバーズ・ウォッチは、既に表面ガラスがひび割れていて、4時29
分24秒のところで止まっていた。龍頭を引いて、針を動かす。12時を越すと、右側にある日付が変わった。午後4時半を過ぎた事は、間違いなかった。
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