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これ以上の悲劇はない。予想もつかなかった出来事が、ここでも一つ始まり始めた。両親の気分はひどいもの、そして最愛の恋人、美和子のもだ。
陽一の運命は、こういうものだったのか。昨日までの人間、そして今日から彼には魂だけのLIFEが始まった。昼が暮れてまた夜が近づき、曙光も消えて行く。パイプベットを囲んで、三人間が会話する…。鼻をならし、優しい口調で美和子がしゃべり始めた。
「陽一さんは…」
「人魚になったみたいッ」
美和子が無邪気な顔をして、そう言ったのを俺は思い出していた。
「お風呂に入るとねェー いつも思うの。特にこんな洒落た所ならなおッ」
湿気の多い部屋、大きめのバスタブ、シャワーの先からは熱めの水が吹き出している。
「じゃあ俺も人魚だ。泳ぐゾッ」
「男の人魚なんていないよ。第一綺麗じゃないもの」
「女の人魚だっていないさ。あれはアンデルセンの童話だし、ジュゴンていう魚を見間違えて、人魚だと思った人が居たって話さ」
情義に、彼女の素肌の胸に、俺は顔をうずめた。
「新婚旅行はデンマークにしよう。人魚姫の像を見に… だから結婚しよう」
響く低い声で、俺はプロポーズを言った。美和子は微笑んで『うん』と、言ってくれた。それから俺は立ち上がり、タイルを踏んだ。その瞬間、ツルンと足がすべった。
その後だった。俺の下半身が魚になったのは…。
END
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