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後に残された私は、呆然として立ちすくむ。
今まで、未成年だと見破られたことはなかったのに。
気づいた男もいるかもしれないが、見て見ぬフリをしていた。
というか、この男は誰?
先ほどの男の代わりに、私の相手をしてくれるとでも言うのだろうか。
いぶかしげな視線を送る。
どこかで見たような気がしないでもないけれど。
鍛えられた身体の線を見せ付けるような黒いシャツ。
胸元に光る金色の鎖。
いかにも遊びなれた夜の男というような、しなやかで美しい肉食獣。
「男が欲しいなら相手してやるよ。明日にでも理科室に来るといい」
はっ?
理科室?
そこでようやくこの男の正体に気づく。
ボサボサ頭で、野暮ったいめがねに、汚れた白衣。
「キモ田」
生徒たちからそう呼ばれている男だと。
目の前の男は、野性味溢れた鋭い目をしており、格好もこざっぱりしていた。
つい足元に目がいったけれど、よれよれのサンダルではなく、ぴかぴかに磨かれた革靴。
いつだったか。
白衣の袖から覗いた時計が、センスの良いもので、似合わないと思っていたけど。
今のこの男にはしっくりくる。
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