喉に刺さる骨

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   そっぽを向く司に忍は根気よく向き合い、話しを引き出した。 「冗談。許せるわけねえだろ」  司が忍をようやく見たかと思うと、頬をひと撫でして、また反対側を向いた。  葵は富豪にでも売り飛ばすつもりで闇の競りにかけたと言った。思うように値が釣りあがらず、波布の声かけで黒川が買い取ったことを教えてくれる。だから葵も生きているが死んでいるのと同じだと言った。命を助けてやった義理で司の命令は絶対であるし、買った黒川の意向にも逆らえない。  あのとき葵が言った“蓮に殺されたほうがマシ”という言葉がようやくわかった。  忍誘拐に関わったほかの人間はほとんど始末されているようだった。はっきりと殺したなどと口にはされなかったが、二度と顔を見ることはないと言われたことで察した。  事故を起こした男も顔に疵を追わせられ、どん底を味わったようだ。今回は葵を運転手に仕立て上げ、双方だけの事故という筋書きらしい。忍が望めば命は助けてやってもいいと言われた。もちろん答えはイエスだ。ひとを殺して欲しいとは思わない。 「俺のためにそうしてくれるんなら。俺のために殺さないでくれ」  今回のような報復が起こらないように、徹底して叩きのめすのが極道のやり方だ。そうしないと司の命が危険に晒されることもあるかもしれない。わかっていても、もしまた刑務所に入るようなことになれば、触れることも叶わなくなる。
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