4020人が本棚に入れています
本棚に追加
司とは忍が彫師を目指してすぐに出逢い、何かとなつかれた。忍が二十歳、司がまだ高校生だった頃の話だ。
ちょうど司の背中の筋彫りが終わる頃、舎弟が問題を起こしたことで、中途半端なまま、勤めに出してしまう形になってしまったのが心残りだった。
「天下の若頭の背中を放ったままじゃいけないね」
忍は端座すると、アルコールで消毒したあと、刺し棒から針を抜き、針入れに捨てた。
佐倉が着替えを終え、玄関の上がり端まで歩くのが見えて、横から靴べらを差し出す。極道とはいえ、彫龍の大事な客人のひとりだ。
軽く頭を下げる佐倉を送りに、暖簾をくぐってエレベーターの前まで歩く。
「司に待ってるからと伝えてくれるか」
「承知しやした」
忍は深々と頭をたれると、また次の客人のために彫龍へと急いで戻った。
最初のコメントを投稿しよう!