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愛知の中心部、栄から北へ数分、伏見の一角にビルがある。
元々はビジネスホテルだったものを、東道組が競売で安く叩いてビルごと買ったらしい。ビルの一階は出入りしやすいように岩盤浴になっている。四階から上はデリヘル、ホテヘル、フェチクラブを経営していて組員が常駐している。ここの一部がカスリ(上納金)になるというのは、司の側近である沢村湊が教えてくれた。ボディーガードのように司の傍を離れず、ラガーマンのような屈強なオヤジだ。
ビルの二階は一般のマンションになっていて、忍の住居と司の個人事務所がある。事務所といっても名目だけで、以前はほとんど司の避難所になっていた。湊曰く、忍用ストーカー対策本部というのは真しやかに囁かれている既知の事柄だ。当然、組事務所のならびに人が住むわけもなく、二部屋は空き部屋になっていた。
「なんだか、騒がしいな」
忍はそう言うと、開け放たれた東道組の事務所をのぞいた。事務机の上には電話にコピー機、ファクシミリがそろっている。一件普通の会社のようだが、壁にずらりと張られた破門状や女子事務員がいないところが異様だ。
まだまだ夏だというのに、暑苦しい侠ばかりが雁首揃えてひとりを取り囲んでいる。ちょうど忍に背中を向けた男が声に反応してこちらを向いた。
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