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司を見送った時にみた、大人びた印象とは違い、眉幅の開いた精悍な本物の顔つきになっている。長身に見合う体躯は刑務所暮らしで少し痩せたのか、より引き締まって縦に長い。濡れたような黒い髪に切れ込んだ眦は健在で、忍は吸い込まれるように目が離せなかった。
「し、忍さん、生足!」
彫龍の店仕舞いのあと、作務衣を着て素足に草履を履いた足に、司の目が輝いた。
まるで尻尾をふりたてた犬のように突進してくる。忍はひらりとかわし、司の尻をぺしんと叩いた。成長していない、と心の中で呟き、舎弟たちの手前どうにか面子を立てなければと声を低くして言った。
「おかえり。四年ぶりになるか、司」
会えなかったのは四年だが、司との付き合い自体は十二年にも及ぶ。
「ただいま忍さん。襲名、間に合わねえですまねえ。会いたかった」
人前だというのに、遠慮なく引き込まれ、少し痩せた胸板に抱きしめられる。自然を装って、腕を突っ張ると、司を見上げて頭を振った。司が忍にいれあげていることは、幹部の目にも白日で、抱き込まれることも珍しくないせいか、頷いている者もいる。
忍は彫龍の五代目襲名を、奇しくも司の服役中に果たした。それまで忍の師匠である渡來仁が刺青日本一という看板を背負っていたからだ。十五で修行に入り、十七年をかけて彫龍を譲り受けたのは偶然の産物かもしれない。何せ半年前、日本の和彫りを広めたいと言い出して、仁がアメリカへと旅立ったのが襲名に至る理由だからだ。
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