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「おりやすよ。遅くなりやした。上が騒がしいんで吼えてきたところで」
歌舞伎俳優を思わせる流し目をして、司と忍の傍に寄ってくる。忍ほどではないが、肌が白く、指も長い。身長もそこそこ高く、縁なしの眼鏡がインテリヤクザに拍車をかけているように思えた。
「お前には面倒かけたな」
めずらしく、司が刀根に礼を言う。いえ、と言いつつ忍をちらりと視線で追われ居心地が悪かった。確かに綺麗な顔をした男だが、忍はあまり好きになれなかった。その情報網はどこからくるのかわからないが、刀根本人のことはさっぱりわからないからだ。忍が知ってるのは東道組の幹部という肩書きだけだった。
「忍さん、彫龍閉めてきたんだろ? 襲名祝いに一杯どうだ」
司がお猪口をあおる仕草をして忍を宴会へと誘ってくる。
「主賓はそっちだろ。明日はお前の背中を彫るつもりでいるんだが」
中途半端になった司の背中を早く仕上げてやりたい。若頭が筋彫りでは忍とて面目が立たない上に、切ない気持ちに駆られた。
「ああ、わかってる。セーブして飲むならいいだろ」
初めから決まっていたことなのか、部屋住みの若衆が、事務所の清掃を始めていた。幹部達も尻を上げはじめ、事務所を出ていく。
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