いいひと。

23/36
前へ
/36ページ
次へ
暫しの沈黙の後で、そう訊ねると、翼は「……タモリかよ」と小さく呟いて、舌打ちをする。右手に挟んだタバコを唇に運び、ふぅーと長い煙を出した。 翼はカラオケ会のメンバーで、看護師を目指して専門学校に通っている。 で、一応、女だ。 化粧っ気なんかまるでないし、服だって、今日はダメージジーンズに、大きめのスカジャンで合わせている。足元はムートンブーツ。そしてタバコがよく似合う。おまけに言うと、ハスキーボイスだ。 身長が低いのが残念だけれど、目鼻立ちははっきりしてるし、一星と同じく翼も中性的なジャニ系だ。男だったら、相当モテるんじゃないかと思う。 見た目は男っぽいけれど、本人は男性になりたい願望がある訳でもなく、ただ楽だからという理由で男みたいな恰好をして、髪もさっぱりと短くしているらしい。性格もサバサバしているし、それはそれで翼に合っている気がする。 翼が初めてカラオケ会に参加したのは、3ヵ月位前の飲み会からだ。友達の友達みたいな感じで紹介された気がする。年齢は確か、俺より2つか3つ上だった。 看護師希望の割には言葉遣いがぶっきらぼうなので、優しい白衣の天使のイメージからは程遠いなと思ったのを覚えている。 初回からスペインバルのテーブルの端でタバコをくわえながら、メンバーの恋愛相談に乗る翼は、同世代ながら、場末のスナックのママのような貫禄がすでにあったし、あだ名はその時からすでに「姉御」だった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加