終幕【とある青年(いのち)の物語】

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「大丈夫。俺はここに・・・・君の傍にいる。だからもう泣かなくて良い。それにユノが望むなら、ユノが本当の安心を得られるまでは、ずっとこうしていてもいい。不謹慎かもしれないが・・・・俺も、俺にとってもこの感情は、必要なものなのかもしれない」 目尻に少しだけ残ったユノの涙を、エリオは指先で優しく拭った。少しだけ頬を紅潮させたユノが、柔らかな笑顔で言った。 「もうちょっとだけ、お願いします」 エリオは何も言わず頷いて、二人だけの時間が流れる。ほんの数秒程度のことだったが、それはエリオとユノにとって──ふたりの心にとって大切な時間だったのだろう。 「あーあ、早速いちゃいちゃしちゃってるねー、おふたりさん」 「あ、あああああアタシのエリオくんがあああああ!!うおおおおん!!もう心中複雑な気分よおおおおおジレッドちゃあああああん!!」 直ぐ近くにいる筈のジレッドやシャルロッテ、癒し猫の館のメンバーにも、その空間に立ち入る事が憚られるのを察していた。 ただこの二人に関しては、単純な男女のソレへの気遣いというよりは、色々と知らない何処かうぶなカップルのように思えてならないので、自然と微笑ましい光景のように思えてしまう。 シャルロッテもジレッドも顔を見合わせて、そして笑った。 少しの後、 「むほん」 と、ヴィセルディアンが全ての会話を遮るように大きく咳払いをすると、ふたりのそんな時間は終わりを迎えた。 「ひゃあっ、あ、あの、ごめんなさい・・・・」 「い、いや、俺の方こそすまない・・・・」 途端になんだか恥ずかしくなったユノとエリオが、慌てて真っ赤になってお互いの身体を離す。周囲から再び笑いが漏れるが、「むほん」と、もう一度の咳払いを聞くと、ようやくその場の視線が壮年の貴族ひとりへと集中する。 「さて、クエストの途中で私がここに現れた事に対して・・・・まあ他にも疑問や意見はあるだろうが、まずは君達に言いたい。息子を護ってくれた事に感謝する。ありがとう、と」 しかし突然のヴィセルディアンの御辞儀は、その場にいたプレイヤー達を混乱させる事となった。クエストの目的であるアルフレッドが、あろうことかその父親に抱きかかえられて登場し、しかも「ありがとう」を告げられたのだから無理もない。 途端にざわめく周囲に、ヴィセルディアンは答えを与えるように続けて言った。
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