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その部屋は、ざわめきと男たちの熱気に満ちていた。
賽子(サイコロ)の数字に一喜一憂する者たちの流す汗と、酒と煙草の匂い。
予想が外れた落胆、勝った者の歓喜。すべてが一体となり、鉄火場に特有の熱気が、見えない渦となって立ちのぼる。
下谷三味線堀の松平下総守・下屋敷の中間部屋は、お上が手をだせない賭場として、界隈(ところ)では知られた存在だ。
この夜も、近くの武家屋敷の中間や足軽。御家人や職人、お店者と、あらゆる階層の遊び人たちが、賽子の目を追っていた。
三味線堀の界隈は、この屋敷や佐竹屋敷などの大きな大名屋敷や、御家人の小屋敷、そして町家がでたらめに混ざる、いかにも下町らしい、江戸を象徴するかのような佇まいである。
そのせいか、賭場の客層も多岐にわたっており、それぞれが、博打に夢中になっていた。
ところが、必死になって賽子の行方を追う客のなかに、賽子の目などは気にならいのか、関心なさげな冷ややかな態度の男がいた。
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