四十二 祐天仙之助

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山口は自分が、八王子に行って、何をしようというのか。はっきりとした目的があるわけではない。 何をしたらよいのか、それすらもわからず、ただひたすら歩いている。 男谷に敗れ、剣士としての自信を失い、それでもまだ、ひとかどの剣士と思いあがっていたその矜持は、ともに暮らした女ひとり護ることができなかったことにより、大きく揺らいでいた。 自分の剣をどう活かすのか。自分は、これからいったい何を為すべきなのか。山口には、それさえも見えず、憑かれたように、夜道を速足で歩む。 慚愧の想いと喪失感だけが、激しく山口を駆りたてていた。 この当時、よほどのことがないかぎり、夜旅をするものなどはいない。 宿場の棒鼻にある常夜灯以外、灯りなどはないので、闇稽古で暗闇に慣れた武芸者や、夜目が効く盗賊でもなければ、山あいの夜旅などは、不可能に近かった。 笹子峠にさしかかり、道は勾配がきつくなり、生い茂った樹木が、さらに道を狭めたあたりで、ふと、なにかの気配を感じた。
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