四十二 祐天仙之助

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盗みは、あと四日後にせまり、御子神一味は時間をずらし、それぞれが、単独で八王子に向かっていた。 捨五郎は、一味の番頭役なので最初に到着して、いろいろと支度をせねばならず、こうして夜道をひとり歩いている。 ひっそりと静まりかえった駒飼宿を抜けると、甲州道中の最大の難所、笹子峠である。 桃の木茶屋をすぎ、清水橋で笹子沢川をこえると甲州道中は、いよいよ山道の様相を呈してきた。 ここから先は、足元に、いっそう注意をはらわねばならないが、捨五郎は先ほどから、他のことに注意をはらっていた。 というのは、誰かが自分を尾けているような気がしてならないからであった。 駒飼宿を抜けたあと振り向いたときに、常夜灯の前を、一瞬、黒い影が横切るのを見たような気がするのだ。 お上に目をつけられるようなへまをした覚えはない。しかし、盗賊としての勘は、後ろに気をつけろと、さかんに警鐘を鳴らしていた。 山道に入ると、道はぐねぐねと曲がりくねり、相手の影は見えないが、相手からも自分の影は、見えていないはずだ。
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