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慌てて教室を飛び出した忍。
飛び出したはいいが、別に具合も悪くないので保健室へ行くのに少々躊躇していた。
しかし授業中に廊下をブラブラしていると先生たちに捕まるため、結局保健室へ行くことにした。
「失礼しまーす。」
保健室の扉を開けた。
「先生、あたし生理痛ー。一時間だけ寝かせて。」
仕切りの向こう側に座っているであろう保健医に忍は言った。
そして了承を得るため、ひょいと仕切りの向こうを覗いた。
「あれ……っ!?」
しかしそこにいたのは、いるはずのない人物だった。
本来なら保健医が座るであろう椅子には、嫌味なほどに律儀なスーツ姿の世界史教師がいた。
「本当に生理痛?ピンピンしてるけど。」
忍の動揺をよそに河谷は淡々と質問した。
「あのー……、保健の先生は?」
「冨永先生なら今ちょっと席を外してる。俺が今だけ番を頼まれてるんだ。」
「あ、そうですか。」
忍は小さく相槌を打った。
梅雨特有の匂いが校庭の朝顔の香と混じって、窓の隙間から入り込んでくる。
「……――。」
「……――。」
なんか、気まずい。
忍は自分の世界史担当である河谷に、今までまったく興味を示したことがなかった。
ただ地味で真面目で道理から外れることのない、そしてとにかく堅苦しいという漠然としたイメージだけを持っていたのだ。
まさにイメージ通り。
なんだってこう、気の利いた一言をくれないのだろう。
「シャーシンはHB派?それとも2B派?」とか「酢豚にパイナップルってどう思う?」とかね。
こんくらい大人として当然じゃん。
しかし河谷は淡泊な表情のまま忍を見据えていた。
相変わらず沈黙は続く。
やっと口を開いたかと思えば、河谷はこう言った。
「質問の答え待ってるんだけど。」
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