1600人が本棚に入れています
本棚に追加
書き終えた忍はベッドを指差し
「寝ていい?」
と聞いた。
「あぁ、どうぞ。」
忍の書いた紙を見ながら河谷は素っ気なく言った。
忍はその隙に飛び切りの嫌味な顔をしてやった。
薄いカーテンを閉めベッドに横たると、パリパリとしたシーツの感触が肌に触れた。
「下の名前は忍っていうんだ。」
突然カーテンの向こう側から河谷が言った。
「うん。」
忍は少し考えてから聞いてみた。
「先生は私の名字知ってました?」
「知ってるよ。授業やってるんだから当然だ。」
そっか、そうだよね。
小さく心の中で呟いた。
生徒の名前覚えるぐらい当然なんだ。
何舞い上がってたんだろう。
「先生の下の名前は?」
「弘樹。」
「ふーん。平凡だね。」
「……。」
「忍は『耐え忍ぶ』の忍ぶなんだぁー。どうだ、かっこいーでしょ?」
「じゃあ生理痛ぐらい耐え忍べたんじゃない?」
なんて隙のない男だ。
「生理痛なんて嘘だもーん。あたし基本生理痛ないんだよね。」
「おまえなぁ」
「内緒にしてね。先生。」
「やだよ。俺は教師だ。」
しかしその時の河谷の声は普段の授業のときより、わずかに柔らかかった。
最初のコメントを投稿しよう!