黒板とチョーク

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気象庁が梅雨明けを発表した。 少しずつ気温が上がり始め、生徒たちの制服は夏服へと更衣されていく。 テストが終われば夏休み。 集中力が薄れる頃だった。 「寝てるやつ顔起こせー。君達は文系クラスだから理系科目捨てていいってわけじゃないんだ。自由選択で数学とる奴だってこの中にいるはずだぞ。」 黒板に果てしなく長い公式の証明文を書き終えた藤本が言った。 何人かは虚ろな眼差しを藤本に向けたが、完全に意識が夢の中の者も少なくない。 「おいっ、近所の人は寝てる奴いたら起こせ。」 テストを目前に控えているせいか、普段は見逃してくれる藤本も今日は心を鬼にしているようだ。 もちろんばっちりと目を覚ましていた忍は、藤本の言葉を聞き目を輝かせた。 ポニーテールにするために縛っていた髪ゴムを解き、狙いを定める。 「3、2、1……発射っ!」 「いてっ!!」 「うっしゃー。」 忍は小さくガッツポーズをした。 「これ撃ったの忍!?」 廊下側の亜紀が窓側の忍に言った。 忍は誇らしげな表情を見せた。 「なんでゴム撃つのよ!痛いでしょ!それにだいたいあんた、先生は近所の人起こせって言ったのに、なんでこんな遠距離なあたしを狙うわけ!?」 亜紀が撃ち返してきた髪ゴムを忍は輪投げのように器用に人差し指で受け止めた。 「はいはい、静かに。浅川さん、寝ていた人にそんなこと言う権利なし。」 「だってバカ忍が」 「山武さん、任務お疲れ様。」 藤本の言葉を聞き、忍はとても嬉しそうな顔をしながら、何故か敬礼した。 数学ってなんて楽しいのだろう。
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