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「もし転勤なら、もう会えないの?」
「離任式で会えるんじゃない?」
「それって転勤するってこと?」
「さぁ。」
忍は河谷の背中を拳で叩いた。
「先生のバカ。」
もう一度呟いた。
「先生のバカ。」
何度も何度も叩いては、痛みにならない痛みを河谷にぶつけた。
「先生とあたしは……、少しだけ、本当に少しだけ……他の生徒と先生より近いと思ってた。違うの?」
河谷は何も言わずに忍の拳を片手で止めた。
忍の方を向くとあのため息をつくのだ。
忍は悲しくなった。
「なんてゆう顔してんだ。また泣くのか?」
「泣かないよ!先生の前ではもう泣かないって決めたもん。」
河谷は穏やかな表情のまま頷くと忍の手を離した。
「俺が転勤になったら悲しい?」
「……は、はぁ?うぬぼれんじゃ……なっ!」
忍はそこまで言って口をつぐんだ。
河谷はわざと忍の顔を覗き込み「ん?」と続きを促した。
「先生なんか……大嫌いだ。」
「それは残念。じゃあ寂しくないね。」
「……っ!嫌い嫌い、大嫌い!」
忍はムッとして河谷の視線から顔を背けた。
「先生はすぐにあたしなんか忘れるんだ。ただの教え子の一人だから……忘れるんだ。」
河谷は呆れたように笑った。
もちろん忍はいい気がしない。
ギュッと握りしめていた紙はもうグシャグシャだ。
河谷はそれを見ると目を丸くした。
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