1600人が本棚に入れています
本棚に追加
「それ……見つけたんだ。」
河谷は忍の握る紙を指差した。
忍は頷くとそれを広げてみせた。
「こんなとこに書いて気づかなかったらどうするのよ!」
「別に気づかなくってもよかったんだ。」
「……え?」
「書いたことで満足したから。」
「……い、意味わかんない!」
忍はその場で地団駄を踏んだ。
河谷が笑う理由がわからなかった。
「もういい!あたし帰る!じゃあね先生。元気でね!」
そう乱暴に言い切ると忍はドアノブに手をかけた。
ボールペンの頭を静かにノックする音が背後から聞こえた気がした。
「特別だよ。」
――……え?
「君は特別だ。」
「トクベツ……?」
「教師の俺がこんなこと言っちゃダメなんだろうけど、君は生徒は生徒でも俺の中で少し別の場所に位置づけられた生徒だった。」
振り向くことはできなかった。
なんだろう。
河谷じゃないみたい。
河谷ってこんな柔らかい声してたっけ?
最後だからあたしの機嫌を損ねないために優しい言葉をくれるのかな?
明日からはまた別の誰かにこの声で話しかけるのかな?
でも、まぁ……、それでもいいや。
それでいい。
だって単純に安心できたから。
「あたしも。あたしも先生は特別だよ。いじわるな人は大嫌いだけど、先生のことは特別に許してあげる。」
忍はドアを開けた。
「先生、長生きしてね。」
「俺はまだ死なないぞ。」
「元気でね。」
「あぁ。」
「いつかまた会おうね。」
「すぐ会えるよ。」
忍は静かにドアを閉めた。
最初のコメントを投稿しよう!