恋する乙女

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――山武忍。 彼女には見えないバリアがあった。 それは誰もが直[ジカ]に感じる程のものではない。 忍はよく人と話す子だ。 明るいという言葉が適切なのかわからないけど、それなりに弾けている。 しかし、あんなおふざけな会話をしておいて、時々覗かせる信じられないほど凜とした表情は目を疑ってしまう。 その表情にどれだけの人が気付いたか定かでないが、少なくとも亜紀は知っていた。 思えば、忍は謎に包まれていた。 クラス変えをし、2年生になってから亜紀と忍は知り合った。 既に知り合って2ヶ月経つが、未だに亜紀は忍のことをあまり知らない。 出身中学校、住んでいる場所、家族構成、そして――好きな人。 知っていることといえば、イチゴポッキーが好物なのと、好きな芸能人が福山雅治だということぐらいである。 それ以上を聞ける会話にならなかった。 いや、忍が無意識のうちに話を逸らしていたのかもしれない。 「変な子。タンポポって普通食べなくない?」 「だからだよ。」 ここで、なんで?と聞きたい。 だけど聞けないのだ。 チャイムが鳴った。 教室の前扉が開く。 亜紀の席は廊下側の1番前だった。 窓側の席の忍はいつも休み時間そこに椅子を持ち寄り、犬みたいに側にいる。 「席ついてー。」 数学教師、藤本が入ってきた。 扉の前に立ち、生徒に着席を呼び掛ける藤本。 そんな藤本の真横で、忍が小さく動揺を見せたのには、亜紀を含め誰も気付かなかった。
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