第1章

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 後のいつか、この一ヶ月余りの期間を三十日戦争と呼びたい。 世の中は十一月だけれど、早くも十二月末の降誕祭に向けて、 華やいでいる。浮かれている。必死で戦っている。祈りも忘れ。  私はベタで勝負する。自分的には最前線のつもり。装備は、 手袋とマフラー。間に合うかどうかなんて余裕の無い事はない。 シンプルだし。余計な事はしてないし、彼の好きな色のはず。  決して編み物が得意でもないし、そもそも器用でもないけど、 今日までの努力は無駄じゃない。色々と野望はちゃんとある。 けれど、寒い季節に防寒具は決して無意味ではないって思うよ。  彼は夏が好きで冬が嫌い。寒いのが苦手。だから手編みに 拘っているわけじゃない。既製品でも防寒は。違うむしろ、 既製品はプロの業だし、こんな不恰好な出来じゃない。でも。  私はいま戦争中。終戦はあるようで実は無い。年末の後も、 来年も戦争は続くと思いたい。ショコラの戦争に挑む為の、 前哨戦に過ぎない。だからって手は抜かない。戦争だから。  どうか貴方が寒くありませんように。温もりに餓えて。  私はクリスチャンではないけど。宗教も信仰心も無いけど、 神様とか嫌いじゃないから。特別に期待したりしなくても、 救世主なんかいてもいなくても。それでも思うくらいはする。  おめでとう。って。  何も怖れずに立ち向かうのは難しいけれど、臆病で怖くて、 それでも最前線の戦闘が止む事は無いから。本当は何も無くて ただ、思うだけしか出来ない。祈る事も出来る余裕がないけど。  何も無い、何も出来ない。でも、おめでとう位は言いたい。 私の救世主とか、そんな風には思わないよ。貴方は貴方で、 私を救う人である必要は無い。私が寒くない方法を考える。  来月、メリーなんとかって言いたい。もう顔が赤いけど。 寒いから。火照るから。これは戦争だから。ジャンヌなんか、 なれるわけない。でも、私は女神になれなくても騎士でいたい。  サムライである貴方に届けるトナカイに遅刻はしない。  何も怖れない。まだまだ続くのだから。私は生き残るからね。 そうでないと魔法使いに捕まって、いつのまにか解放されてさ、 銀杏並木で戸惑って移調したり。蝶々の気持ちで花を摘んだり。  内緒で編むことを忘れちゃうから。魑魅魍魎に囲まれたって、 手の内なんて見せないから。魅せないから。だって戦時中だし。
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