暗中疑心

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「よし、曹仁は太史慈の偉容に恐れをなして逃げた!皆の者、ここは前進して逃げる曹仁を叩くのだ!」 孫策が勢いを得てそう言ったと同時、 「お待ちください!」 と、慌てて諫止する者がいた。 他ならぬ文聘、字を仲業であった。 文聘は孫策に駒を寄せ、諌めて言った。 「若君、ご自重ください。ここは林に囲まれたいわば伏兵にもってこいの場所です。曹仁は太史慈に脅えて逃げたふりをして、その実伏兵のいる場所まで誘引しようとしているのです」 不機嫌そうに眉根を寄せる孫策であったが、 「……なるほど、向こうの林中に敵の斥候が多いのは伏兵を悟らせないため」 と頷いた。 「間者からの話だと、付近の林中は警戒網が厳しく、そして道中一匹も獣がいなかったとのことです」 「ううん、曹仁はどうやら武勇だけの者ではなかったのだな」 「曹操の連れる将は皆優秀な武将が多いようです。決して油断されぬように」 「……」 孫策は進軍を止めて、そこに陣を構えた。 一方の曹仁は計略を装って逃げたが、実のところ敵が警戒した伏兵こそ虚偽のものであった。 曹仁の手持ちには二千程しかいない。 もし追われればきっとそのまま討ち取られただろう。 しかし満寵は自信ある様子でこう進言した。
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